佐藤純一 ( fhána / FLEET ) のブログ

佐藤純一 ( fhána / FLEET ) 音楽家 / NETOKARU 副編集長 音楽とかアニメとか活動報告とか日々思ったことなど。 fhana

『惜日のアリス』と『lyrical sentence』のこと

惜日(せきじつ)のアリス

惜日(せきじつ)のアリス

 

文芸批評家の坂上秋成さんの初小説作品、『惜日のアリス』が発売された。

ぼくたち‪fhána‬は、この小説のプロモーションビデオに新曲「lyrical sentence」を提供させて頂いた。映像はkoji aramakiさん。

 

映画もアニメも音楽もライトノベルも、PVを作るのは今や当たり前になっているが、純文学作品でPVを作るのは今回が恐らく初の試みだろう。関われて光栄に思う。

 

本の帯には、「新たなる家族と性の物語」というキャッチコピーが書かれているが、これは坂上さん本人もトラップだと語っている通り、本当はそうではない。正確には、「新たなる家族と性が当たり前になった世界の物語」だ。

 

『惜日のアリス』の主人公は、最初はノーマルな女の子だったが、途中からレズになり、その他の登場人物も、ゲイやバイセクシャルなど様々。主人公の恋人ナルナ(女性)の娘のリリカは、血の繋がっていない主人公のことを「おかーさん」と呼ぶ。だがしかし、この作品はジェンダーの問題や、擬似家族問題などに踏み込まない。ただ当たり前のものとしてそこにある。

 

主人公は、毎週Ustreamで自作の小説や詩の朗読を披露し、ネットを介して他者と繋がり合う。しかしこれも、ソーシャルネットで人と人が繋がるとは何か、といった問題には踏み込まず、ただ普通にUstをしているだけだ。

 

さらにこの小説には、様々なJ-POPやボカロ曲、アニソンなどの固有名詞が登場する。

 

ぼくたちは、あらゆる固有名詞もインターネットも性の問題も家族の問題も全てが当然のようにそこにあり、何でも起こりうる世界に生きている。ネットだからとかリアルだから、と分けて考えることは出来ないし、ネットでもリアルでも、人と人とが繋がり合うのはとても難しい。

 

『惜日のアリス』には孤独と愛があり、決して強固ではない脆い幸福がある。なぜ幸福が脆いのかというと、それは人と人との繋がりはとても脆いものだからだ。そんな当たり前のことを当たり前のように描き切った作品だからこそ、この物語は勇気と希望を与えてくれる。

 

 fhána

「lyrical sentence」


作曲:佐藤純
作詞:林英樹
編曲:fhána
歌:towana
ギター:yuxuki waga
サウンドエディット:kevin mitsunaga
ピアノ,ミックス,マスタリング:佐藤純


個人的には、ここまでポップカルチャーが自然に入り込んだ文学作品は他になかったし、小説そのものが崩壊しだす後半はTVシリーズのエヴァのラスト付近っぽさを、物語のラストにはKeyの『Air』っぽさを感じてそれも良かったです……